タイトル通り、昨今のサッカージャーナリズムの中で重視されがちなシステム・戦術論ではなく、まず第一に「個の力」ありき、というのを強調した一冊。(戦術も大事だけれど、そこ一辺倒になってないか、という提言。この辺は誤解を生まないよう、言葉を選んで書かれている。人によっては歯切れが悪いと感じてしまう人もいるかもしれないけれど。)この本は、「個」の力の中でも単純な身体能力(もちろんプロスポーツなので、重要な要素であることに疑いの余地はない)ではなく、いわゆる「サッカー脳」にfocusが当たっており、「サッカー脳」を「準備」や「アドリブ」という言葉を使って、わかりやすく解説してくれている。また、その実例(「サッカーを知っている選手」)にfocusを当てた選手評も面白かった。かつて著者が所属し、自分が好きなチームでもある鹿島アントラーズは、身体能力や技術はあっても、それを適切に判断、使用できる能力がなければ、なかなかチームの中で機能することが難しいチームなので、そういう意味でも満男やモト、曽ヶ端を含めた「79年組」の能力の高さを改めて感じた。後半は「個の力」がどう磨かれるべきか、ということでユースのメリット、デメリットが描かれている。メリットは言わずもがな、メソッドが統一されたことによるテクニックや戦術の平均が上がったこと、デメリットはその分、自分で考える力が落ちてしまっているのではないか、ということが述べられている。他のサッカージャーナリズムで、いわゆる「日本人の性質」として描かれているものに近いだろう。言われたことをこなしてしまう日本人に、世界標準をそのまま持ってきてもダメで、むしろもっと理不尽さの負荷をかけた方が総合的な選手としての幅、能力が広がるのでは?との提言は一つの考えだろう。欠点としては、内容のまとまりがあまりなく、雑誌のエッセイの連載をまとめて単行本にしました、という感じなので、もう少し整理できたところはあったかもしれない。CROの仕事が多忙と思いますが、初回でこれだけのものが書ければ、次回作にも期待です。個人的には、選手評が新鮮であったので、それに絞ったものを希望です。もちろん、それはあまりやるべきではない、やらない方がよい、という意見もあると思いますが、それだけに新鮮かつ面白いのでは?と思いました。著者ならば、うまく書いてくれるのではないでしょうか?
鹿島アントラーズ 動画サッカーの指導者には様々なタイプがあり、逆の指導方法をとることもある。選手が成長することもダメになることもあるので、そのギャップをうめるのは大変である。いろいろなタイプの指導者に対し、不本意なことを言われても、最終的には自分の利益になったと冷静な判断をしている。全日本チームの指導者に対する感想はわかりやすく説得力がある。サッカーの自分史が目に見えるように描かれている。