【購入92冊】村上春樹、野坂昭如、庄野潤三、三島由紀夫、ドナルド・キーン、西尾維新、木下順二など。購入本紹介"究極の店舗"篇92冊③【純文学・オススメ小説紹介】

庭のつるばら (新潮文庫)

庭のつるばら (新潮文庫)

 交差点にたどり着いたとたんに横断歩道の信号が赤に変わった時、なんとついていないことだと腹立たしく思うか、やれやれここで一休みと余裕をもって周囲の景色に目をやるか。たとえばこのような取り立てて言うほどのこともない日々の出来事への態度の違いが、俗に「生活の豊かさ」などと言われている境地を心底から味わえるかどうかの境目になる。ただしそこには体力の衰えというものが大きく影響しているに違いなくて、老いをまさに身をもって体験している者にしか判らない心の淡泊さというものもあるのだろうが、それもまた人様々である。要はそういった「等身大」の感覚や思考や感受性を、気が遠くなるほどに長くしかしあっけなくも短いはずの人生の積み重ねのなかでどこまで鍛錬し研ぎ澄ますことが??きるかにかかっている。──「夫婦の晩年を書きたい」。齢七十を越えた庄野潤三氏の「湧き出る泉」のような気持ちは、年に一冊という、はやりの言葉を使えば「スロー・ライフ」そのもののペースで営まれ語られていく生のかたち(大切な事は何度でも飽きることなく反芻する)となって結実している。その文学的達成は、もしかすると前代未聞のことなのではないか。本作は『貝がらと海の音』『ピアノの音』『せきれい』に続く第四作目。

プールサイド小景・静物 (新潮文庫)

プールサイド小景・静物 (新潮文庫)

いろいろあるのですが、女だけの(母と娘姉妹の3人)一家に現れた指圧療法を行う60近い歳の牧師をめぐる、末娘からみた母との関係(黒い牧師)や、自分が養子に出されたり、知らない家に預けられたりする事を幼い子供が自身の視線で観察する話し(紫陽花)とか、母の日を記念して行われる講演に出席する私と母の慌ただしい戦争中の団欒の話し(団欒)とか。

しかし、中でもやはり表題作の「プールサイド小景」は絶品です。幸せに見える家族の本当の姿や、その生活に潜んでいた闇の部分をえぐり出して、さらに俯瞰してみせる!私の言葉にしてしまうとチープな感じになってしまいますが、ホントに素晴らしい作品です。

どれも素晴らしい放り投げた終わらせ方であるにもかかわらず、暖かな余韻があり、尚且つ、もう一度直ぐに頭から読み直したい欲求にさせます!終わらせ方の切り口がものすごくソリッドなのに、余韻は暖か。

親子の時間

親子の時間

作家自身と思われる父親と母親、一姫二太郎の家族五人が主人公。丘陵に建つわが家の平々凡々とした日々の暮らしがつづられた作品集です。

料理のこと、木々のこと、小鳥のこと、訪れる父や子供の友人たちなど、言葉にしなければ記憶の中に埋もれてしまうようなたわいのない時間を、作者は丹念に紡いでいきます。

ほぼ半分を占めるのが、批評家の河上徹太郎夫婦との交流を描いた「山の上に憩いあり」です。子どものいない河上夫妻を、クリスマスに自宅に招いての家族総出によるもてなしが温かく描かれています。母親同士の合唱、子供たちの演奏、寸劇、そして工夫を凝らしたプレゼントのやりとりの場面などは、殺伐としたニュースが多い今では、宝石のように貴重なものにさえ感じられました。

感激した河上徹太郎が子供たちに何度も握手を求めたり、プレゼントされた杖を絶句して抱きしめる場面は、子どものいない夫婦の寂寥をはからずも強く印象づけていますね。

庄野潤三は遠藤周作、安岡章太郎などとともに「第三の新人」といわれた作家の1人です。晩年、家族の日々の暮らしを描いた一連の小説で話題になりましたが、決して旬とは言えないこの作家の作品をハードカバーで出すところに夏葉社の自信と見識が伺えます。